The酒場2009 File No.3「半造レストハウス」2月8日
今日はひどい。
なんてこった。
昨日までは まあまあだったのに。
今日は、すごすぎる。
地元のマスター、もんさんがつぶやく。
「こんな日にねえ。今日は特別すごいよ。」
寒いのだ。
気仙沼を抜けると、道がまったくわからない。もんさんに電話をしつつ道を聞き、半造にたどり着いた。
そう、半造とはマスターの名前じゃない。
土地の名前なのだ。
唐桑半島のひとつの先っぽ。半造。
半端でない寒さだ。
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「もんさん、寒いよ。お湯割り飲みたい。」
「酒屋がまだ来ない。あ、一杯分だけあるな。これでつないどいて。」
「もんさん、トイレはどこ?」
「外だよ。」
「もんさん、トイレ寒いね。電気はどこ?」
「あ、冬場は人来ないから、役場に電気ぬかれたかな。ちょっと待って。はい、ろうそく。」
「あ。明るいね。これで大丈夫。」
「もんさん、それにしても寒いね。」
「きょうは特別だよ。」
「もんさん、星がすっごくきれい。」
・・あ、もんさんがうれしそうに微笑んだ。
さあ、来るとこまできた。本物の極寒ライブだ。
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「ライブよかったよ。」
「ありがとう。もんさん。お客さん寒そうだったよね。みんなストーブから離れないんだもん。」
「あはは。こんなに寒いのも珍しいんだよ。」
「あは。よかった、こんな日に来れて。」
「さ、飲もうよ。娘たちがいっぱい料理したよ。」
「うわー。すごいね、もんさん。これはなあに。」
「まつもっていう海草だよ。今の時期はわかめとか海草がいちばんうまいよ。ま、そこら辺ですぐとれるけどね。」
「このアワビも採れたてなの。」(娘)
「アワビとか買うものじゃないんだ。そこら辺でとれるよ。」
「これもいただいたの。はい、鹿。」(娘)
「鹿?」
「炒めてみたの。」(娘)
「おいしい。」(岡地)
「おいしいね。あたしも初めて食べた。」(娘)
酒は天狗舞の純米吟醸。他、おでんに白子ポン酢に刺身に生ひじき炒めに、と、最高の酒にあう最高のつまみだった。
時計は12じを打ち、きょうは、娘ももちゃんのハッピーバースデー。
誕生日のうたをうたった。
楽しいひとときだった。
「さ、帰ろうか。」
「やだ。」・・・ユウタ(息子)が叫ぶ。
「だって、もうおしまいだよ。みんな帰るんだ。」
「やだ、やだ。」・・・ユウタが泣き出す。
「みんないっしょに帰るんだ。今夜はみんなでユウタの家に泊まるんだよ。」
「やだ、やだやだ。」
「ねえ、ユウタ、いっしょに帰ろう。」
「や、や、やだやだやだ。やだ。」
・・・楽しかったんだね。ユウタ。そのキモチ、よくわかるよ。
すんごくよくわかる。
あたしは少しオトナになっちゃった。
いっしょに泣いてダダこねたいけど、
・・もうできなくなっちゃった。
ほうら。ユウタ、星がキレイ。
やだ。やだ。
やだ。 やだ。 やだ。
やだ。
やだ。
や や
や だ。
・・・・・・・・・・・・
次の日は少しポカポカしてた。
少し周りを歩いたら、びっくりした。
三方は海だったのだ。
昨日はあまりの寒さと暗さでよくわからなかったが、半造はそういう地だったのだ。
少し泣いた。
「もんさん、また来る。」
「また来て。僕も福島遊びにいくよ。飲もう。葉山へもときどきいくから。ほら、こんな楽器作ってるんだ。ユウタもビーズアーテストだよ。ユウタのビーズ、ひとつあげるよ。」
「ありがとう。」
「夏の海も見たらいいよ。半造の夏の海。僕も半造って芸名にして、また唄おうかな。」
・・・今夜もまた。明日もまた。
by madam-guitar | 2009-03-01 09:52