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The酒場2009 7/17 File No.36「山口小野田チビチビ」

 硫酸の街、小野田。
 小野田セメントの小野田。
 ・・・
 ・・・卵と、酸っぱいニオイがした。
 ・・5つのときだった。
 東京から愛知県豊田市に引越した。
 なんだろう。
 母と裏の空き地を散歩した。
 少し歩くと、無数の卵の殻の海があった。
 捨てられた卵の殻でおおわれた広大な空き地。
 真っ白な海。
 はるか向こうに、キューピーマヨネーズの工場があった。
 ・・・卵と、酸っぱいニオイ。
 母の手をぎゅっと握った。

  ・・・

 ・・「硫酸の街ってどういうこと?」
 「硫酸をあつかっている工場が多いんですよ、小野田は。」
 ・・「硫酸 って?」
 「工場で働いているヒトはみんな目をやられますね。目が痛くなるんです。見えなくなったりします。命じゃなくて、目です。炭鉱みたいなもんです。」
 「街にも硫酸あふれてます。目、やられます。酸ですからね、街自体、なんとなく酸っぱいニオイしますよ。」
 ・・「ええ?」
 「いや、昔のことです。今はそんなことないですよ。」
 ・・少しなら嗅いでみたい。

 ・・酸っぱいニオイ。
 ・・マヨネーズとどっちが酸っぱいか。

          ・・・・・・・・・・・・・・・

 居酒屋チビチビは、この街の独占酒場だった。
 回りに他の居酒屋がないのだ。
 あるのは酒屋一軒。
 缶チューハイ買って飲むのも悪くないが、
 居酒屋チビチビには、
 すばらしいママがいるのだ。
 そんな居酒屋に、機材を持ち込んで、
 マダムギターがライブをやるのだ。

 「あ、今日ですか。今日は東京から来たジャズの歌手、マダムギターさんがライブやるから、すいません、予約はムリです。」
 「10名ですか。すみません、今日はあいにくライブがあるもんで~、またよろしくお願いします。」
 ・・「ちぇっ、今日に限って、飲み会の予約のお客さんばかりだよ。週末だし ね。」

 「ごめん、ママ、稼ぎ時だったねえ。」

 「いいのいいの、また稼ぐからっ。なんか食べる?いま、芋がら煮てるけど食うかい?」

 さて、飲むか。

          ・・・・・・・・・・・・・・・
             ・・・・・・・・・

              ・・・・
                 ・・
                     ・・・・・・・・・・・・・
 ママは、最後に花束を贈呈してくれた。
 「すばらしいジャズだったね、さあ、宴会宴会。」

 ま、ジャズじゃないけどよきゃなんでもいいんだ。
 ライブ終了後、一気に居酒屋となる。一般の飲み客も入れますよ。
 続々と来る飲み客。
 ちびちびは はやっているのだ。
 何しろ、このあたりの独占居酒屋だから。
 忙しい忙しい、いつのまにか厨房にいる人数がふえている。
 家族経営なのか、奥からお父さん、娘、イトコなど出てきてきりもりしている。

 ・・ライブなんかやるより、居酒屋にしておいた方が儲かる?

 ・・・いや、そういう問題じゃないんだね、骨のある居酒屋ってのは儲け一辺主義じゃないんだ、楽しい、と思ったことはやる、おいしいと思ったものは仕入れる、客には押し付けない、客は客で、店に入ったからには、だいたいのところ店の流儀に任せる、いやならさっと出る、よければまた来る、お互い生活はたいへんだ、だけど居酒屋は夢の世界。すべて忘れて飲んでまた小銭を稼いで飲んで・・・死んでいく。

 ・・飲酒至上主義!?

 とにもかくにも、あたしはひとつ夢を叶えた。夢だったのだ、ひとり居酒屋ののれんをくぐると、そこには無数の唄がありドラマがあり絵がありヒトがいて・・

 ぐちゃぐちゃになるのだ。

 ぐっちゃぐっちゃ!

 今まで貯めてきたものなんかクソクラエだ!

 おっと、今夜も言い過ぎてきたな。

 ・・山頭火の家にも行ってしまったし・・

 山頭火は実は酒ではなく水をねだってたらしい し・・・

 ニンゲン、何か決め付けるとロクなことないな、

 ・・・ない  かも。

 ・・かも しれない。

 ・・・かもね。

 真実はひとつでない、無数にある。


 ・・・今夜もまた、明日もまた。

by madam-guitar | 2009-10-03 14:22  

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